滋賀県の山々をつないで、ぐるっと一周するロングトレイル「Shiga1」。総距離438km 累積標高28,200m(本人計測値)という壮大なコースのFKTチャレンジを、6日間と12時間10分という記録で走り切った丹羽薫選手。
丹羽薫選手の「Shiga1FKTチャレンジ」を支えたサロモン製品のレビューを2回に渡ってお伝えします。
初回はフットウエア編です。「CROSS /PRO」と「S/LAB XA ALPINE 2」の2種類を履き分けた丹羽選手のレポートです。
CROSS /PRO
先日滋賀の県境トレイルを1周するShiga1 FKTを走った際に、1番活躍した靴CROSS /PROのご紹介です。
今回のFKTチャレンジは総距離438km 累積標高28,200mとなりました。そのうちの約340kmをこの靴で走っています。ずっと同じ靴を履き続けると臭くなるので、2足用意して途中で交換しました(笑)
まず今回この靴を使おうと決めた理由ですが、大きく分けて以下の3点です。
1.フィット感
長時間履いても足あたりが優しく、足の一部がアッパーの接合部によって擦れることが無く、特に足首周りの当たりの柔らかさが、他のどの靴にも見られない特殊な感じで、浅めでフィットします。そのくせホールド感は抜群で、長時間走っていると生じてきやすい横ブレもしっかり押さえてくれます。
2.安心のグリップ性能
もう一つはラグの形状とパターン、アウトソールのコンパウンドが特殊で、日本のトレイルにオールマイティーに対応してくれること。フカフカ腐葉土のトレイルから、ざれ場、岩場、ぬかるみ、特に今回のコースは急登と急降下の繰り返しが多く、このグリップ力に非常に助けられました。
3.ソールのサポート力
そしてソールの硬さと安定性。薄く柔らかいソールの靴は、普通の距離では快適ですが、長距離になると足裏へのダイレクトな突き上げなどで疲労感を感じやすくなってきます。しかしこの靴はソールに程よい堅牢性があり、8mmドロップなので超長距離でも疲れにくい作りになっています。
ではそのフィット感はどこから生まれてくるのか?これは4方向に伸縮するソックスのようなニット素材のアッパーに MULTI-FIT テクノロジーを組み合わせ、足の形状に合わせて自在にフィットするようデザインされているからです。クイックシューレースを緩めに締めていても、足をしっかりホールドしてくれている感覚があるので、足がむくんできた後半は、かなりシューレースを緩めて走っていました。
柔らかいニットアッパーを採用することで心配なのが横ブレですが、それを抑えるために足を適度にホールドする Matryx® EXO スケルトンを採用し、足の両サイドを包み込むような構造になっています。
この部分はケブラーが織り込まれているために耐久性に優れ、水はけのよい素材となります。またニット生地部分も水はけがよく、浸水性も低いのか、少々泥の中に足を突っ込んでも、中の白い靴下が泥色になっていなかったり、汚れが落ちやすかったりと、帰ってからの靴のお手入れも楽ちんです。
ヒールカップは浅めですがしっかりしたカップが入っており、踵をしっかりホールドして着地から蹴り出しまで抜群の安定性を発揮します。
次に何故日本のトレイルにあうのか?日本のトレイルはヨーロッパの堅牢な地盤とは違い、特に今回走った滋賀の山々は腐葉土で崩れやすい地質のところが多く、しかも里山やけもの道のような所は急だったり、ズルズルになりやすかったりします。それだけなら、ラグの大きなソールパターンの靴を使えばいいので、色々な靴が各社から出ていますが、逆にブロックが大きく、接地面が小さいと、岩場で滑りやすくなったり、ロードで走りにくかったりと、別の問題も生じてきます。全体にラバー素材を使用した Contagrip® アウトソールは、特殊なコンパウンドと独自のラグパターンを採用しているため、ぬかるみで絶大なトラクションを発揮するだけでなく、ラグの接地面積も大きく、ラバーの粘りがあるため、岩場やざれ場でもしっかりとグリップしてくれます。日本のトレイルはこういった様々な地質のミックスが主で、特にロングトレイルになるとそのバリエーションも大きくなるため、オールマイティーに対応する1足はとても重宝します。険しいトレイルでこそ威力を発揮する4WDのようなシューズと言えます。
最後に何故疲れにくいのか?これはやはりソールの適度な厚さと剛性、ヒールドロップが8mmという作りが関係していると思います。普段はフォアフット気味の着地ですが、流石に長い距離を走るときは持ちません。スピードよりも耐久性を重視した走りになりますから、その場合はヒールドロップが小さいナチュラル系、スピード系のシューズよりも、これぐらいのプロテクションが必要になってきます。しっかりとしたヒール部の支えによって、ミッドフット着地でもヒール気味の着地でも安定感があります。また、インソールをSIDASのカスタムインソールにすることにより、より快適なロングランが出来るようにしました。
おかげで、437km走った後も、別の靴で1か所マメが出来た以外は、全く問題ない綺麗な足で走り切ることができました。特に足首周りの圧迫が少ないため、私のようにシュータンで擦れたりしやすい人や、アキレス腱付着部の炎症を起こしやすい人にはぜひ試していただきたいシューズです。
気になる耐久性ですが、今回使用した2足のシューズを比較のために撮影しました。右が600キロ程度走った靴です。(今回のFKTとその試走でも使用しています。)左が200キロ程度走った靴です。(今回のFKTでのみ使いました。)
ソールの減り方は距離に応じての減り具合を示していますが、アッパーはかなり荒れたトレイルを進んだにもかかわらず、どちらも穴などあくことなく綺麗なままです。
よく、ソールよりもアッパーが先に駄目になるというランナーの方の言葉を耳にしますが、このニット素材ならアッパーは非常に長持ちすると思います。1000キロぐらいいけそうです(笑)でも中間のクッションフォームがへたってきた靴をずっと履いて走っていると、故障の原因になるので、ある程度で買い替えることをお勧めします。
伸縮性のあるアッパーなので、色々な形状の足の方にフィットしやすいと思いますが、折角の素晴らしい靴も形が自分の足に合わなかったり、サイズが合っていなければ、その良さは実感できないと思うので、是非お近くの店舗でお試しください。
CROSS /PRO
MEN:25.0cm~28.5cm
WOMEN:22.0cm~25.0cm
¥17,000+Tax
S/LAB XA ALPINE 2
Shiga1 FKTで使用した靴のもう1足がこちらのS/LAB XA ALPINE 2です。
おそらく438kmのうち、140㎞ぐらいはこの靴で走っていると思います。
また、昨年のユーフォリア、トルデジアンやオマーンのような岩場の多い山岳レースでも活躍してくれた靴です。
この靴の最大の特徴は、シューズの中にシューズが入っているような形状です。
ゲーター一体型シューズということですが、最初はなんとも不思議な感じでした。
まず中の靴ですが、S/LAB シリーズの靴ということで、フィット感や走りやすさなどは抜群です。シンプルな赤い靴には素晴らしい性能が満載ですが、特にクッション性と安定性、モーションコントロールに優れたミッドソールに、尖った岩や起伏の多い路面で足を保護してくれるProfeel Film が搭載され、岩がゴロゴロした山岳地系のトレイルには理想的な靴です。
更にアウトソールはグリップ力や耐久性、パワー伝達力を考えて設計された前足部エリアを持ち、クライミングやスクランブリングが混ざってくるようなトレイルランニングやファストハイクなどにピッタリです。このアウトソールは、ぬかるんだ柔らかい腐葉土や泥地だけでなく、濡れた岩などの滑りやすい路面で最大のグリップ力を発揮するよう設計されていて、安心感が抜群です。
またシューズを覆い隠すように出来たアウターシェルは、砂、雪や泥などの侵入を防ぐだけでなく、足首周りのサポート力をアップさせてくれ、長い下りでも足に負担を少なく安定して下ることができます。特にガレ場の下りで威力を発揮します。
アウターシェルは完全防水ではないですが、撥水である程度の雨や、雪、ぬかるみから足を守ってくれます。
2019年のUTMFはずっと雨だったので、最後のエイドまでこの靴で行き、濡れて重くなった気がしたので最後に普通のトレランシューズに履き替えましたが、中の白い靴下はあれだけ泥沼の中を走ったにもかかわらず、真っ白いままでした。
冬場などは普通のシューズよりも防寒性が高いため非常に重宝します。昨年のOMMで2日目の朝はマイナス5度ぐらいだったと思いますが、足がかじかむことなく快適に走れました!
しかもこのアウターシェルのおかげで、どんなに藪こぎしてもシューズのアッパーに穴があくことはありません。オマーンの岩ゴロゴロの中を走り続けても、靴は綺麗なままでした。ユーフォリアでは、一緒に走った飯野選手の靴が1レースで穴だらけの無残な姿になっていたのに、この靴はソールが若干消耗しただけでした。
この靴にはレースだけでなく、八ヶ岳縦走を往復したり、アルプスでトレーニングするとき、レース前で足を大切にしながら距離を踏むトレーニングをしたいときにも助けられています。既に5足目ぐらいを使用していると思いますが、1足あたり600キロ以上は問題なく走れますよ。トレランシューズとしてはちょっと高い気がしますが、その耐久性と性能を考えると、テクニカルなコースやアルプス縦走などが好きな方には、普通のトレランシューズですぐにアッパーがやられたり、ソールが岩場で削られたりして買い替えることを考えたら、かなりリーズナブルなシューズかと思います。
最後に私のShiga1での使い方ですが、ザレ場の多い鈴鹿山脈で砂が入ってくるのが嫌だったのと、前半は鎖場などがある岩場が続き、急登も多いため、岩場や滑りやすいザレ場での安定感と足首の保護を考えて、この靴を使用しました。
この靴は普段のサイズより1センチ大きいサイズで使用しています。それはアウターシェルのおかげで、サイズが大きくても下りで足が前にずれて爪を打つようなことも無く、レース中足がむくんできてもゆとりがあり、冬場は分厚い靴下を履くことができるし、すごく寒いときは、足に貼るカイロを付ける余裕を持たせるためです。
このため、Shiga1 FKTの後半に、足がむくんで痛くなってきたときも、こちらの靴に履き替えました。最後の最後はなぜかむくみが収まってきたので、CROSS/PROに履き替えましたが、むくんだ時も対応してくれるけど、むくんでいない時でも中で足が動き過ぎない靴というのはなかなか無いのではないでしょうか?
1つ注意点は、湿度の高い日本の夏には、アウターシェルがあるために足が蒸れやすくなるということです。ヨーロッパの夏や、日本アルプスのような高所なら大丈夫ですが、夏に里山を走るのには不向きです。日本の低山では特に秋から春にかけて活躍してくれる靴でしょう。これからの季節、アルプスでのハイキングやファストハイク、トレランでの縦走などを計画されている方、今年は無くなってしまいましたが、トルデジアンを目指している方、12月に開催予定のオマーンのレースを目指している方には是非お勧めしたい1足です。
普通のトレランシューズよりは重さが若干ありますが、履いて走ってみると意外と気にならないので、是非お店でお試しください。
S/LAB XA ALPINE 2
23.0cm~28.5cm
¥28,000+Tax