マウントフジトレイルクラブ代表理事の太田安彦さんは、「夏の富士登山では“夏から冬まで”の気温帯がある」と話します。

その大きな気温差に対応するためには、レイヤリング、いわゆる重ね着のテクニックが欠かせません。なかでも、ベースレイヤー・ミドルレイヤー・アウターレイヤーという三層構造を意識してウェアを組み立てることが重要になります。ここでは、富士登山におけるレイヤリングの重要性や具体的なレイヤリング例について、太田安彦ガイドのアドバイスをもとに“最適解”を探っていきます。

富士登山でのレイヤリングの重要性と「三層構造」のポイント

富士登山と一般的な登山では、レイヤリングに大きな違いがあります。その理由は主に2つ。ひとつは標高差です。一合目から登ろうとすると、吉田口の登山口は約1400m。そこから標高3776mの山頂まで一気に高度を上げることになります。そのため気温差も大きく、さらに独立峰ゆえに強風や降雨など天候の急変も起こりやすいのです。

もうひとつは、富士登山ならではのスタイル。御来光を狙って夜間に行動する人も多く、山頂付近では冬山並みの冷え込みになることもあります。

こうした環境に柔軟に対応するための基本が、ベースレイヤー(=汗を素早く逃がす肌着)、ミドルレイヤー(=保温を担う中間着)、アウターレイヤー(=風雨を防ぐ外側の殻)という三層構造です。これらを状況に応じて足したり引いたりしながら、「夏から冬までをカバーできるレイヤーを、ひとつの登山の中で用意する」ことが重要だと言えるでしょう。

標高帯別のレイヤリングサンプル

五合目までの樹林帯エリア
(想定気温:20〜30℃)

一合目付近であれば、ショートパンツで歩きたくなるような気温になることもありますが、この先の冷え込みを考えるとロングパンツがベターです。汗をかきやすい登り始めは、速乾性の高い化繊やメリノウールのベースレイヤーを選ぶことで汗冷えを予防できます。肌寒さを感じたら、その上にウィンドシェルなどを重ねると良いでしょう。

最初は樹林帯ですが、のちのち岩場も現れますし、スコリア(砂状の細かい火山礫)が靴の中に入り込まないよう、シューズはミッドカット以上、ソックスは靴からしっかり出るくらいの長さのものがおすすめです。

五合目からの森林限界以降
(想定気温:10〜20℃)

五合目から上は少し肌寒くなってくるので、ロングパンツとウィンドシェルの組み合わせが基本になります。強風に備えるという意味もありますが、森林限界を超えると直射日光による熱中症にも注意が必要で、できるだけ肌を露出しないほうが良いでしょう。

八合目に差しかかると、かなり肌寒く感じるはずです。ただし日射しがある場合、行動中は汗をかくこともあります。化繊やメリノウールのベースレイヤーに薄手のミッドレイヤー、さらにウィンドシェルやソフトシェルなどを上手く組み合わせて、汗冷えしないよう調整しましょう。

早朝の八合目や御来光待ちの山頂付近
(想定気温:0〜10℃)

御来光を狙う多くの登山者は、まだ暗いうちに八合目あたりから頂上を目指します。夜間や早朝の時間帯には、気温が0度近くまで下がることもしばしばです。トップスは、インサレーション(中綿入り)ジャケットに、防風性の高いハードシェル(レインジャケット)を重ねた組み合わせが基本。強風時はフードをしっかり被ることで、頭部からの体温低下も防げます。

ボトムスは、ここまで履いてきたロングパンツの下にタイツをプラスするのがおすすめです。それでも寒さを感じる場合は、レインパンツも重ねましょう。首周りを冷やさないことも重要なので、ネックゲイターなどで対策を。ニットキャップをプラスしても良いでしょう。手袋は、手首までしっかり覆えるタイプを選びたいところです。

太田安彦ガイドからのアドバイス

「さまざまな状況が起こりうる富士登山では、“選択肢をたくさん持つ”ことがレイヤリングでいちばん大切だと思います。そのぶんウェア類はどうしても増えてしまうので、軽量・コンパクトで携行性の高いものを選ぶと快適性がぐっと上がります。

特にレインウェアは、高性能なものを用意してほしいですね。雨でもインナーが濡れないことはもちろん、防寒具としても機能しますから。バックパックの容量の目安としては、30〜40リットル程度がおすすめです。

山頂付近での御来光待ちは特に要注意です。山小屋に入れる人数には限りがあり、吹きさらしの中で長時間停滞する可能性もあります。そのため、防寒対策はくれぐれも万全にしておいてください。

気温への対応には個人差があります。適材適所でウェアをレイヤリングできるよう、事前にイメージトレーニングしておくことも大切だと思います。

適切なレイヤリングで登るかどうかは、登山時の快適性だけでなく、あとに残る思い出の質にも大きく影響します。ぜひ、自分なりの“最適なレイヤリング”で富士登山に臨んでほしいですね」

富士登山装備チェックリスト

エリア別のスタイルを選んだら、出発の前に装備の最終チェックをお忘れなく。