親子で走り続ける道

MCCスタート前

世界最高峰のトレイルランニングレース

ウルトラトレイル・デュ・モンブラン(L’Ultra-trail-du Mont-Blanc 以下UTMB)は2023年で20周年を迎えた、歴史ある世界最高峰のトレイルランニングの大会です。最終日に行われるメインレース「UTMB」のエントリー要件(参加資格)は2つ。1、ランニングストーンを1つ以上保持。2、UTMB Indexが100km、100mileカテゴリであるレースを完走。ランニングストーンを獲得するためには指定レース(2023年10月現在は海外レースのみ)に出場し完走する必要があり、ランニングストーンは距離や大会の難易度により1~8個与えられます。最低でも1つあれば抽選に参加でき、ランニングストーンの数が多いほど当選確率が上がるといわれており、当選するとランニングストーンは消失し落選すると戻ってきます。指定レースを完走しても抽選にあたらなければ出場できないため、出場するだけでも大変なレースです。

例年8月最後の週に1週間かけてフランスのシャモニーで開催され、今年は世界118の国からランナーは1万人、ボランティアは2千人、観客は5万人が参加していました。大会種目は7種目MCC(40km)、TDS(145km)、ETC(15km)、OCC(55km)、UTMB(171km)、CCC(101km)です。

走る距離によりスタート場所が変わり、それぞれフランス、スイス、イタリアからスタートし、ゴールはどの種目も同じでシャモニーゴールになります。今年は8月28日から9月3日にかけて行われました。UTMBの期間は参加者、観光客で町があふれ、1週間シャモニーの町はお祭りムードに包まれていました。 

今回は、親子でSalomonに勤務しトレイルランニングを楽しんでいる私(板橋黎華)と母(板橋美紀)が、それぞれMCC(40km)、UTMB(171km)に参加してきました。 

シャモニーへはジュネーブまで飛行機を乗り継ぎほぼ1日かかります。そして、ジュネーブからはバスで約1時間半。ようやくシャモニーに到着です。シャモニーへ近づくにつれ、雄大な自然と雪のかぶったアルプスの山々が現れ、写真に見ていた景色を実際に見ることができ気持ちが昂りました。 

シャモニーの町から見える景色

レース前日・受付 

受付はどの種目もレースの前日に行われ、事前に受付時間をUTMBのエントリーサイトで予約しておき、受付時間になったら会場へ向かいます。レースの必携品をザックに入れて会場へ。私が出場するMCC(40km)の当日は雨で気温が低い予報なので、Cold kit(寒さへ対応できるものが必携)を準備して受付に向かいました。 

受付内容は3つ。パスポートを提示し本人確認を行い、レースで持参する荷物にタグをつけてもらうこと。ゼッケンの受け取り。荷物預けのバッグを受け取ることでした。 受付が終わった後は、写真を撮ってもらえるブースでゼッケンを持った写真を撮ってもらいました。 

受付会場の様子

MCC(40km)レース【板橋黎華】

第1エイド

MCCはスイスのマルティニーをスタートし、シャモニーに帰ってくるコースです。スタートは10時のため、7時にシャモニーの宿を出発しマルティニーへバスに乗り約1時間かけて向かいました。レース前夜から雨が降っており気温も低く、到着したときは気温8度。標高600mからスタートし2,200mまで登るため、山頂の気温はマイナスになり雪が降っているのではないかという予想でしたが、初の海外レースということもあり、そんなことは気にならないくらいレースが楽しみで仕方ありませんでした。雨もスタートの時間が近づくにつれ少しずつおさまっていき、いよいよスタート。MCの方の盛り上げや、地元の方の大きな声援を受けスタートしました。 

8月28日 午前10時 MCCスタート

スタートから山に入るまで3km程、沿道には地元の子供たちが走っている選手にハイタッチを求め「アレ!アレ!」(フランス語で行け!行け!という意味)と声をかけてくれて、スタートからとても感動しました。コースは第1エイドまでは7.7km/1,000mを登り1つ目のピーク、そして第2エイド16km地点まで600mから2,200mまで一気に登ります。アルプスの絶景を見ながら走れるのを楽しみにしていましたが、あいにくの天気で景色は見られませんでした。ですが、日本のレースとは異なる盛り上がりや雰囲気を実感できて、幸せな気持ちでいっぱいでした。

コースは雨でぬかるみ、気を抜くと滑ってしまうような状態でした。第1エイドに到着し、エイドではナッツ、果物、ドライフルーツ、チョコレート、パウンドケーキ、コーラなど日本のレースでもある食べやすいものが多く、加えてサラミ、チーズ、フランスパンなどの海外レースならではのエイド食でいつもより沢山食べてしまいました。

エイドの補給食

第1エイドを過ぎさらに標高が上がります。上を見ると厚い雲に覆われ、登るにつれて少しずつ気温が下がり寒さが厳しくなってきました。霧の中を進んでいくと2つ目のピーク2,200m第2エイドに到着し、山頂につくと雪が降り積もっており、気温はマイナスです。エイドで休んでいると冷えてしまうので、少しだけエイドで休憩し暖かいお茶をもらい温まりながら先に進みました。

第2エイドを過ぎると残り20kmに降り基調になります。少し下ると雪も寒さも弱まり、景色が広がりました。今まで霧に覆われていた山が見え、やっとアルプスの雄大な自然を一望することができました。この景色を見るためにここに来たのだなと改めて実感し、この地を走れることが本当に幸せでした。

標高2,200m 第2エイド付近の様子

第3エイド27km地点、最後のエイドです。最終エイドへ着いた頃には雨も上がり、エイドも町中にあったので多くの人が応援に来ていたり、楽器の演奏が聞こえたりと和やかな雰囲気でした。 そこから10kmほど進むといよいよゴールのシャモニーです。 町に近づくと沿道の観光客の方もみんな声をかけてくれて、ゴール前で待っていた母と一緒に日本の国旗を持ちゴールゲートに向かいました。

ゴールゲートが見えるところに来ると、沿道は人であふれ、トップ選手にでもなったかのような盛り上がりの中ゴールしました。ゴール後は完走した証のメダルをもらい、レースは終了しました。いつまでも走っていたいと思えるようなレースは初めてで、とても貴重な経験をすることができました。 

MCCフィニッシュ

UTMB期間中のシャモニー

私のレースが終わり、母のレースまで4日ありました。この4日間は、各スポーツブランドのイベント(朝ラン、朝ヨガなど)があり、参加すると靴下やエコバッグなども貰えて盛り沢山の内容でした。その後は、周りの山へ観光しに行き、モンブランを眺められる3,800mの展望台エギュイ・デュ・ミデュへ登ったり、登山鉄道で氷河を見に行ったり、山の上のカフェでモンブランを眺めてお茶したりと夢の様な毎日でした。

シャモニーの町からは天気がいいと常にモンブランを見ることができ、町のすぐ裏に山へ続く道があるため、ハイキングやトレランを楽しんでいる方も多く見受けられました。ゴンドラやハイキングでもすぐに標高2,000mまで行くことができ、気軽に景色を楽しむことができます。

レースの期間中、シャモニーの町中にはレストランでごはんやお酒を楽しみながらレースを観戦する人、家族や友達の帰りを待ちわびる人、観光を楽しむ人など様々な人がいました。 現地にいる人はみな、選手が来ると声をかけて完走を祝福していました。日本では感じることのできない町全体がUTMBを楽しむ歓迎ムードでした。 

UTMB(171km)レース【板橋美紀】

UTMBスタート地点の光景

娘の出走から、4日後ようやくUTMBのスタートです。朝からゆっくりと過ごし、デポバック(81km地点のエイドに置ける荷物)を預け、その後スタート地点へ向かいます。月曜日からスタートしたUTMBシリーズもいよいよラストの種目となり街中が熱気に包まれています。

選手達は一同に緊張と感動で胸の鼓動が高まっているのがわかります。ここに立つまでの努力と苦労、トレーニングに費やした時間も過ぎ去った年数も計り知れません。この地を夢見て、この瞬間に同じ時間を共有出来る世界各国の選手達に囲まれたとても幸せな時間で、皆の瞳の奥には真剣なキラキラとした眼差しがありました。 

9月1日 18:00 UTMBスタート 

スタート時点は暑く、日の落ちる3時間まででかなり汗をかき、日が落ちてからの高山では気温が下がり、風もあったため体感温度も低くなりました。30km地点のコンタミンまでは走りやすい山道で、汗を大量にかきエイドでウエアを着替えました。

ここからは夜のパートなのでライトを装着しエイドを出ました。標高2,500mの山区間になるため夜中はかなり気温が下がり風も寒く、一気に体温が奪われ冷えてしまいます。塩分は取っていましたが大量の汗をかいたので、すでに熱中症の症状で吐き気を催していました。 

31km地点コンタミン

ここからはかなりのペースダウン。しかし、エイドはもちろん、エイド以外でも多くの街の人の応援が途絶えることなく、すれ違う皆に応援され進むことができました。この地点からイタリアのクールマイヨールまでの道のりは、週初めに降った雪が積もっていたので稜線は寒く、薄手のダウンと暖かいグローブを着用して進みました。81kmのクールマイヨールには娘のサポートもあるのでなんとか辿り着き、そこでゆっくりとしたいと思いながら歩みは止めず一歩一歩進みました。 

しかし、コースはかなりなもので日本では考えられない程のコースでした。ただ、朝焼けが来て周りが見え始めると、壮大なアルプスの景色にうっとりし、向こうの山には牛の放牧が見え、満月が朝焼けと共に見えた時は素晴らしい景色でした。夜中も、満月だったのでライトを消しても周りが見えました。最高のシチュエーションでその光景は素晴らしく、忘れることができません。 

UTMBのレース中に見た朝焼け

あの山の先はイタリアのクールマイヨール。娘の待つエイドです。そう思うと頑張れましたが、進んでも越えてもまだまだある山に終わりがないと思いました。時間もギリギリでダメかもしれないと思っていたら、遠くの方にエイドが見え始め、意を決しダッシュしました。とりあえずスタッフがなんでも良いから持って行って良いと言うので、スイカを口に頬張りギリギリで関門を通過。 

次の関門まで10kmで2時間。周りの人達は脇に座り諦めモードになっていましたが、私は諦めずに前に進みました。待っている娘がいる限り諦めずに前に進む。そこから次の関門は4.5kmだと言われ、だいぶ余裕があると思ってしまったのが間違いでした。なんと、関門までは9kmもあったのです。4.5kmはその手前で、そこからさらに先がえげつないくだりがあり、その先がクールマイヨールでした。

完全に計画ミスの結果、私のUTMBはイタリアのクールマイヨールで終わってしまいました。情けない気持ちでいっぱいの中、残ってしまった足と心の置き場のない気持ちが入り混じりました。この思いは、また次回のUTMB参戦で必ず晴らそうと思います。何度でも帰ってきたくなるこの地へ、次回は娘と一緒に参戦してゴールを踏みます。 

UTMB(171km)レースサポート【板橋黎華】

スタート1時間半前にスタート場所に着きましたが、すでにその場には多くの選手がおり、スタートを見ようと集まってきた人でにぎわっていました。天気は晴れで気温も高く、私のレース時とは真逆の気候でした。そして、スタートが近づき感極まって涙を流す選手、緊張している選手、楽しみな様子の選手と反応は様々で、この大会に出場するためにどれだけの努力をしてきたのかと見ている側も緊張しました。

いざレースが開始すると2,300名の選手が一斉にゲートをくぐり、171kmの旅に向かいます。 私は母のサポートをしにコンタミン(31km地点)へ向かうため、スタートを見てすぐ宿に戻ってバスに乗り、2時間ほどでコンタミンに到着しました。到着すると、間もなくトップの選手がやってきました。多くの歓声の中続々と選手が通過していきます。 

サポートは選手がエイドに到着する10分前にならないとサポートエリアに入ることができず、母が到着する時間を携帯で確認しエイドに入りました。元気な様子の母に会うことができ安心しました。エイドではもってきていたそうめんを食べ、飲み物を入れ、次のサポートができるエイド81km地点クールマイヨールで「待ってるよ」と伝え、エイドから送り出しました。母を見送った後は、コンタミンに関門の24時までいました。最後まで応援は続き、24時になったところで1度宿に戻り、3時間仮眠を取り次のサポートエイドへ向かいます。 

81km地点クールマイヨール

そして、翌朝6時にクールマイヨールに到着。母の到着予定まで時間があったので、クールマイヨールの町を観光し選手を応援しました。母から体調が悪く走ることができないと連絡を受け、心配しながらも準備をして待ちました。クールマイユールの関門は13:15、母がクールマイユールに到着したのは13:40。25分間に合いませんでした。母の長年の夢だったUTMBは幕を閉じましたが、また挑戦しに戻ってこようと誓いました。

シャモニーの町に戻ると女子トップのSalomon 選手コートニー・ドウォルターが戻ってくるところで、大歓声の中ゴールしました!その後に日本人トップの選手もゴールしてきました。このような瞬間をまさか目の前で見られるなんて本当に幸せすぎました。またこの空気を感じに、そしてUTMBを母と共に走り完走するためにシャモニーに戻ってくることが目標となりました。

MCC(40km)、UTMB(171km)両レースで利用したギア

ULTRA GLIDE 2 

MCC(40km)、UTMB(171km)共にレースは登り、降りが長く(10-20km)続くことが多く、コースは地盤が固く脚が痛くなるという情報を聞いていたので、迷わず安定性とクッション性のあるULTRA GLIDE 2にしました。実際のコースは岩盤が石メインの土壌なので走りやすいのですが、固くて身体にくる衝撃はかなりのものでしたので、長い登りと降りが続く今回のコースではこの靴を選んで正解でした。 

ADV SKIN CROSS SEASON 15

ランニングバックパックはADV SKIN CROSS SEASON 15を選びました。ADV SKIN 12と悩みましたが、必携品も多かったため15Lと容量が多く、耐水性があり雨や汗から荷物を守れるADV SKIN CROSS SEASON 15にしました。特に、MCCのレースは雨でしたが荷物が濡れずレースを終えることができました。また、バックパックの前面にストックをつけられるようになっているため、レースで利用したストックも楽に持ち運びができ、快適にレースを終えることができました。

レース中に参加者の利用しているギアを見ながら走っていたのですが、バックパックは7割の方がSalomon を利用していました。中でも利用率の多かったシューズはS/LAB GENESIS、バックパックはADV SKIN 12でした。シューズ・バックパック・アパレル共にSalomon の利用率が高くさすが本国のフランスだな、と高いブランドの信頼を感じることができました。


FOCUSED ITEM

ULTRA GLIDE 2

ULTRA GLIDE 2は、その革新的な汎用性と高いクッション性でどんな地形や路面にも適応するカメレオンのようなトレイルランニングシューズ。軽量かつ長距離に対応した快適な履き心地が、景色を縫って走るランナーをどこまでも遠くへ運びます。

ADV SKIN CROSS SEASON 15

厳しい寒さや激しい雨も、このギアさえあれば怖くない。ADV SKIN CROSS SEASON 15はベストセラー製品の ADV SKIN ベストの優れた特長にドライバッグスタイルのメイン収納スペース、耐水性のあるポケット、大きなトリムをプラスしたスグレモノ。どんなコンディションでも開口部をサッと開け、アイテムを収納することができます。


板橋 黎華/Reika Itabashi

・Salomon marketing team

親子でSalomonに勤務。社会人になり母の影響でトレランを始め、休日はアルプス縦走、テント泊など山でのアクティビティーを楽しんでる。

<主な戦績>
2022 菅平スカイライントレイル 優勝
2023 奥信濃100 50km 優勝 
2023 ハセツネCUP 10位(年代別1位)